最新治療レポート

TPP幹細胞治療の推進に影落とす

法案急ぐ「再生医療安全性確保法案」で、高いハードル
GMP基準が追加、外資・製薬メーカーに主導権!?

クリニック併設の幹細胞治療や、医療連携に急ブレーキ
成長見込むツーリズム市場は一転、海外に逃げる

再生医療推進法の成立に続き、新法として今秋の国会で法案通過が見込まれていた「再生医療安全性確保法案」(一部、薬事法改正)は、ここにきてその内容を巡って、当初盛り込まれていたクリニック併設の幹細胞療法の実施基準が、一転して高いハードルを設けたことが明らかになった。8月初旬に開催されたJAASのセミナーで明らかになった。クリニック併設型の幹細胞培養施設については、原案の届出制を担保してはいるが、CPC基準をより厳しくしつつGMP基準に準拠する施設とした。さらに二次救急医療機関に限定する意見も盛り込まれそうだ。また、海外の培養施設も日本と同等の基準とプロトコルを要求しているため、バンキングした幹細胞を持ち込んで海外の患者を日本で治療を受けさせる、いわゆる「海外医療ツーリズムの逆輸入」にも影響は避けられない。当初、5月末に閣議決定した法案内容から、一転して規制強化にハンドルが切られた時期が、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉と並行して行われる日米の二国間協議がスタートした7月中旬と符合する。そして同時期に開かれた審議会での議論において在日本法人をもつ外資系大手や国内最大の製薬メーカーがGMP基準を満たす培養施設の提供と幹細胞ビジネスに名乗りをあげてきたことが、その背景にあるとみて間違いない。成長戦略の一つとして再生医療分野を育て、日本が国際競争力に勝てる手立てとして規制緩和と事業への参入を促進させる、とした安部政権だが、市場開放が迫られるTPP交渉の中で、アメリカ側の要求に一部、歩み寄りをみせざるを得ないことから、外資大手への門戸開放を示したとみる向きがある。また、安部首相肝いりの産業競争力会議で国内最大手の製薬メーカー社長が有識者委員のひとりであることも、今回の突然の法案内容の変更に影を落としていることは疑いがない。法案は、当初の今秋国会での審議、成立からずれ込み厚労省の審議会で12月まで法案骨子の議論を断続的に積み重ね、来年には成立させるという。成立した再生医療推進法案の骨子には『国民が迅速かつ安全に再生医療が受けられるための総合的な推進に関する法案』とある。そのために一部の規制を緩和し事業への参入を促進する、としていながら、幹細胞のビジネスモデル形成のハードルは限りなく高い。このままでは、製薬大手を除き、幹細胞治療参入の道は閉ざされる。つまりクリニック併設の幹細胞培養施設は、夢のまた夢で終わる公算が大きい。いま治療を受けている患者もまた、この法案が通った場合、多大な治療コストがかかる。何よりも現在稼働するすべてのクリニックが基準を満たすことができずステムセル療法のクリニックは閉鎖に追い込まれ、患者も当面治療は受けられない。分業制という建前論を振りかざして、医師の裁量権を狭め、幹細胞治療の主導権を製薬メーカーにもっていくことは明白だ。2050年には50兆円を超えると予測される再生医療市場にあって、その臨床応用に最も近いとされる幹細胞療法では、海外の患者誘致をする医療ツーリズムの市場性は限りなく大きい。このままでは、日本の患者のみならず、海外からの患者も他国に逃げていくことは免れないだろう。

当初、再生医療安全性確保法案」の原案では、法的な整備によって、悪質なビジネスの参入や一部良識を欠く治療によって生じてきた医療事故を防ぎ、安全性と知見を厚労省の届出制によって実態把握できることから、晴れてセテムセルピーが疾病はもとより、美容アンチエイジング分野でも広がりをみせることが期待されていた。
しかし一転、その法案づくりに厳しいハードルが加えられた。8月4日開催されたセミナーで、横山 博美医師がその全貌を明らかにして、わかった。
JAAS日本アンチエイジング外科学会(共催:特定非営利活動法人 日本臨床抗老化医学会)が開催した、第4回StemCell Therapyと美容アンチエイジング「日・露における幹細胞療法 再生医療新法案で動く!ステムセル療法と医療連携プロジェクト」での講演だ。
当初の原案では、安全性に関わる規制を一部担保しながらも、ある一定のCPCなど設備基準を満たせば、責任ある医師のもとクリニック併設型の幹細胞培養センターは、法案成立後1年の猶予期間をみながら届出制によって、晴れて正式に稼働、運用できるとしていた。稼働後は、届出制であることから、主に院内での患者の治験記録などの保管や培養管理記録をストックしさえすれば、日常的な治療はできるとされてきた。
ただ、ここでいう幹細胞を使った治療は、疾患に限らず美容アンチエイジングを目的とした利用にも範囲は及んでいる。また培養せず分離抽出した幹細胞であっても、「特殊細胞加工物」の範ちゅうに入るため、運用にあたってはこの基準に準ずるとしている。
しかし、ここにきてその内容を巡って、当初盛り込まれていたクリニック併設の幹細胞療法の実施基準が、一転して高いハードルを設けたことが明らかになった。クリニック併設型の幹細胞培養施設については、原案の届出制を担保してはいるが、CPC基準をより厳しくしつつGMP基準に準拠する施設とした。さらに二次救急医療機関に限定する意見も盛り込まれそうだ。
横山医師によれば「当初、5月末に閣議決定した法案内容から、一転して規制強化にハンドルが切られた時期が、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉と並行して行われる日米の二国間協議がスタートした7月中旬と符合する」として、アメリカ側からの市場開放の要求に応じたのでは、と暗に述べた。そして同時期に開かれた審議会での議論において在日本法人をもつ外資系大手や国内最大の製薬メーカーがGMP基準を満たす培養施設の提供と幹細胞ビジネスに名乗りをあげてきたことも、暴露した。
アメリカからみれば、自費診療にならざるを得ない再生医療は、医療や保険の日本市場への参入にとってはまたとないビジネスチャンスであることから、ますは先兵として外資系の製薬メーカーが主導権をとることを視野に入れたとみて間違いない。また、安部首相肝いりの産業競争力会議で国内最大手の製薬メーカー社長が有識者委員のひとりであることも、今回の突然の法案内容の変更に影を落としていることは疑いがない。
法案は、当初の今秋国会での審議、成立からずれ込み厚労省の審議会で12月まで法案骨子の議論を断続的に積み重ね、来年には成立させるという。
こうした突然の法案内容の変更に、セミナーに参加した医師らからは質問が相次いだ。「現在、難病で苦しみ藁をもつかむ思いで幹細胞を受けている患者はどうなるのか?」「既存の実施施設およそ100か所はこの基準によってどうなるのか?その場合推定1万人はいるとされる治療の受け入れは?」「GMP基準など高いハードルによって治療費は上がらないか?」「稼働できる培養施設と医療連携は?」などである。
こうした問いに横山医師は、「成立した再生医療推進法案の骨子には『国民が迅速かつ安全に再生医療が受けられるための総合的な推進に関する法案』とある。そのために一部の規制を緩和し事業への参入を促進する、としていながら、幹細胞のビジネスモデル形成のハードルは限りなく高い。このままでは、製薬大手を除き、幹細胞治療参入の道は閉ざされる」と答え、クリニック併設の幹細胞培養施設は、夢のまた夢で終わると強調した。
実際、GMP基準に沿った培養施設は最低でも20億円以上の投資が必要となり、その上、GMPに沿った運用管理体制をとるためのコンピュータ機器や人的コストを加えれば数億円が加算されるという。まして二次救急の医療機関も条件になれば、とてもクリニックレベルでは難しい。何よりも現在稼働するすべてのクリニックが基準を満たすことができず、ステムセル療法のクリニックは閉鎖に追い込まれ、患者も当面治療は受けられないという。
そして、稼働できる培養センターと医療連携することになっても、初期投資とイニシャルコストを考えれば、とてつもない治療費を想定しなければならない。
医師という立場から話をすれば「分業制という建前論はわかるが、結果的に医師の裁量権を狭め、幹細胞治療の主導権を製薬メーカーにもっていくことは明白なのでは」(横山医師)と嘆く。
(セミナーはその後、横山医師の400症例にも及ぶ臨床症例の発表、そしてJAAS理事・中間医師の4000例の症例と幹細胞、成長因子、スキャフォルドを組み合わせた全く新しい発毛療法の講演が行われたが、受講者に配慮して内容は控える)
セミナー終盤、演壇にたったロシアのMedicoordinator代表のグラドコフ・アレクセイ氏は「ロシアの骨髄系由来・他家幹細胞の研究と治療実績~東南アジアにおける医療ツーリズムの現状と今後の日本における医療連携とクリニック創設」について、話を進めた。
同社では、アジア各国に幹細胞医療の橋渡し役をするインターナショナルなメディカルビジネスエキスパートで、すでに香港、、マレーシア、マニラ、シンガポール、インドネシアに提携クリニックをもち、拠点となるロシアの培養センターの幹細胞によって医療ツーリズムを行う。
各国国情の違いや規制の在り方に違いはあるものの、法規制はないため、ロシアやアジアの富裕層を中心に、現地のクリニックと提携して、培養した2億個の幹細胞を輸送しながら、提携するクリニックで治療を行っているという。
「患者さんのリピートは7割以上で、多くがアンチエイジングを求めて治療しています」と述べた。
そして現在、拠点なっていっているロシア放射線研究所・治療クリニックの培養施設に加え、高い医療技術と研究体制そしてハイクオリティの培養技術をもつ日本でのクリニック併設の培養拠点づくりを目指していることを参加医師になげかけた。
冒頭で解説のあった、「海外の培養施設も日本と同等の基準とプロトコルを開示」しなければならない法案の行方に対しては、「そのためにも基準を満たした日本での培養拠点をつくれば、海外患者を誘致する幹細胞ツーリズムは成長できる。充分勝機はある」と話した。また医療連携にも意欲を示し、そのまとめ役にJAASを指名している。
*JAASでは9月28日‐10月1日、ロシア幹細胞の治療の現状を探るミッションを実施します。詳しくはJAAS公式サイトで。

(ロシア幹細胞事情・前号より)
本紙JHM取材班は、再生医療に関わる海外での実態をつぶさに探るため、先ごろロシア連邦の首都・モスクワに現地派遣、オブニンスクにある幹細胞治療の実際をみてきた。本紙と共に、モスクワに同行したのはJAAS理事の中間 健医師(赤坂ACTクリニック)で、現地モスクワでのコーディネーターは先述のアレクセイ氏だ。モスクワから車でおよそ2時間、オブニンスクという郊外へ我々は向かった。森の中に立つロシア放射線研究所・治療クリニックの中にそのセンターはある。正式名称はMedical Radiological Research Center of the Russian Academy of Medical Sciencesで、旧ソ連時代から脈々と受け継がれるロシアの放射線研究の総本山ともいえる場所だ。地名に聞き覚えのある読者もいるだろう。そう、ここで世界初の民間の原子力発電所が稼働していた。迎い入れてくれたのは、幹細胞治療のセンター長であるアナトリ教授(医師)と、モスクワ大細胞工学博士で培養技術の責任者でもあるソニア女史だ。  
ステムセル研究は1965年から続けられ、その後、放射能汚染に対する幹細胞治療をつづけ、あのチェルノブイリ原発による白血病の治療研究でも、この研究施設が表舞台になっていたという。現在まで2500症例をこえる治験成果を得ている。我々取材班そして中間医師は、特別にアナトリ教授から、実際のステムセル治療を受けることになった。培養された他家幹細胞は、骨髄系のステムセルで2億個が点滴によって注入された。 
「何十年の研究によって骨髄系のステムセルが最も効果が高く、培養法によって良質なステムセルを選択的に増殖させる技術を確立している」とアナトリ医師は強調する。
治療の後、アナトリ医師と中間医師とのさまざまな症例結果のディスカッションを行った。日露の幹細胞治療医がこうしたかたちで医学的な議論をしたことは喜ばしい。 

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