Doctor’s LABOトピックス

次世代を担う再生医療を追う

再生医療を活用した医療現場の実情とは
話題のiPS細胞についてもリポート

2012年10月、iPS細胞の研究によって京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したのは記憶に新しい。
患者自身からiPS細胞を生成する技術が確立されることで、拒絶反応のない移植用組織や臓器の作製が可能になると、再生医療の分野において期待されている。また同時に、治療法がないと言われる難病の病因・発症メカニズムの研究や、患者自身の細胞を用いた薬剤の効果・毒性を評価することが可能となることから、全く新しい医学分野を開拓する可能性も持ち合わせていると言われる。
このiPS細胞は、人工多能性幹細胞(じんこう たのうせい かんさいぼう 英語:Induced pluripotent stem cells)の略である。体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)のように非常に多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞だ。同様の細胞として注目されている「ES細胞」は、すでにアメリカやヨーロッパでは日本より研究が進んでいるが、受精卵を材料として用いることで生命の萌芽を滅失してしまうために倫理的な論議を呼んでいた。
なおiPS細胞の名前については、山中教授がその当時人気だった携帯音楽プレーヤー「iPod」を真似て、最初の文字を小文字にしたのだそう。

今回は、ips細胞とあわせて注目される再生医療について、幹細胞治療をメインとして行う赤坂ACTクリニック院長の中間健院長に詳しい話を伺った。赤坂ACTクリニックは、2012年3月に赤坂で幹細胞治療をメインとして開院。主に自己細胞を使用し糖尿病、肝臓病、脳梗塞後などの治療と、リンパ球療法を使用した治療を行っている。

脂肪にコラゲナーゼ処理を行い、幹細胞を取り出す

人間の細胞再生能力には限界がある

イモリは手足を切っても数ヶ月で元通りに再生する。脳さえも再生出来るそうだ。またオオサンショウウオは、別名「反裂き(ハンザキ)」といい、半分に裂いても死なないという通説がある。ヒドラという淡水に住む無脊椎動物においては、輪切りにしようが、半分に切ろうが、すりつぶそうが、条件さえあえば再生する驚異の再生能力だ。このように切断した部位が再生する理由は、切断面に「再生芽」という膨らみが出来き、これが成長していくために起きるのだという。この再生芽は細胞が未分化な状態、すなわち筋肉や神経になる前の状態に戻ったもので、この成長芽が成長し細胞の数が増えながら筋肉や神経や骨の細胞に変わっていく(分化)。これによって脚が再生される。

この動物界で見られる「再生」を、人間で実現することは難しいのだろうか。
実は、私たちの身体でも日常的に再生は起きていると中間ドクターは言う。例えば、皮膚や血液の細胞。表皮の細胞は毎日、アカが発生するが、これは皮膚の中に表皮細胞を再生する細胞があり、この細胞が分裂して新しい皮膚の表皮細胞に変化するため、アカが発生しまた傷口がふさがるそうだ。そしてこれを新陳代謝と呼ぶ。だが手足や臓器レベルを回復するほどの再生は、残念ながら不可能である。理由は、人間の身体は、210種類以上 60兆個のパーツの細胞で成り立っており、部位によって細胞のパーツも、役割も形も異なっているからだ。
様々な役割を持つ細胞の中に「細胞を作り出す」ことが専門の細胞もある。この「細胞を作り出す」細胞のことを「幹細胞」と言う。幹細胞は、傷ついたり、古くなってしまった細胞を入れ替えるため、新しく細胞を作る。病気やケガで失われた部位を新しく補充するのも、幹細胞の役目だ。前述のヒドラの身体には、どんな細胞でも生み出すことができる幹細胞がある。よって身体を切られると、切り口に幹細胞が集まり不足部分の細胞をどんどん生み出し身体を再生する。
人間には多数の器官が存在するものの、幹細胞の能力は限られているため、小さな傷は直せても手足のような複雑で大きな部分は再生できないのだ。

幹細胞を活用した再生医療

たった一つの受精卵が約60兆個、210種類の細胞へと変化していく中で様々な役割を持つのだが、幹細胞もその中のひとつで「細胞を作り出す細胞、または組織を修復する細胞」である。

具体的な働きとしては
1.免疫調節作用
2.損傷細胞へのミトコンドリアの供給及び組織保護作用
3.抗炎症作用
4.液性因子の産生
5.細胞死の調節作用
6.血管新生作用
などがある。

ACTクリニックの治療では、脂肪から取り出した幹細胞(脂肪由来間葉系幹細胞)を使い治療を行っている。この「脂肪由来間葉系幹細胞」は、骨、血管または最近では神経や肝臓にまで分化するのではと言われいる。

よって診療対象となるのは以下のような症状が挙げられる。
1.血管の病変:心筋梗塞、脳梗塞、腎不全初期、血管性痴呆、
糖尿病による下肢虚血、難治性潰瘍、バーガー病、その他血管由来の病変
2.神経の病気:パーキンソン、その他
3.骨、軟骨の病変:リウマチ、変形性関節炎、
4.その他:糖尿病、肝臓疾患、免疫性疾患

いずれでも効果が期待できるが、既存の薬で治療可能な場合もあるので、まずは事前に、専門医が一人ひとりの症例を診断し上で判断していただきたい。

血液保存の様子

専用の血液保管装置

幹細胞移植治療における抽出法と課題

幹細胞は、患者自身の身体から脂肪を20cc以上取り出し抽出する。採った脂肪細胞の中には様々な細胞が混じっているため、コラゲナーゼ処理を行い、間質血管細胞群が取り出す。取り出した細胞群中におよそ1%ぐらいの割合で、幹細胞が存在する。様々な文献をみると0.02%から2%まで幅があるが、ACTクリニックの研究施設で調べた結果では平均1分の4880の割合で含まれているのが分っている。よって、20cc以上採れた脂肪の中には100万~500万個の幹細胞が存在してる事となる。この幹細胞を1ヶ月以上培養し、この増やした幹細胞を再度患者様に点滴や局所に戻す治療を行う。これを幹細胞移植治療と呼ぶ。
ただし幹細胞治療はまだ新しい治療であり、どのような病気に効くのか、またどれぐらい投与すれば効くのか分からない病気も多いのが実情だと中間ドクターは語る。
成着率が悪い点や費用が高額である点もまだまだ実際の現場での普及は難しいと言われている。現状、再生医療といっても万能薬ではないので、まずは担当医の先生とよく相談するのがよいと語る。

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