提言 (株)ヘルスビジネスマガジン社 代表取締役会長 木村忠明氏
安倍政権でサプリに新たな脚光集まる
予防と医療で求められるエビデンスのあり方
人口減少で社会保障が問題に
昨年6月に世界的な人口問題の団体が主催して東京国際フォーラムで人口問題と高齢化をテーマにしたシンポがあった。世界の人口は70億人を超えて、今世紀半ばには100億人に近付くといわれている。
このまま人口が増加を続ければ、資源ばかりか食糧も不足し、環境も限界に達する可能性がある。欧米諸国はすでに人口の抑制を行っているが、世界の人口の6割以上を抱えるアジアは増加の一途を辿っている。唯一減少に転じたのは日本だけだ。しかしアジアの国々は日本の高齢化に懸念を抱いている。人口を減らすことは、出生率を抑えることだが、すると少ない現役世代で多くの高齢者の面倒を見なければならなくなる。
つまり社会保障に掛かる費用の負担が問題になる。まさに日本はその問題で苦しんでいる。
問題解決は高齢者を健康にすること
社会保障は年金、医療、介護の3つが柱だ。社会保障費は現在の99兆円(2011年)から2025年には150兆円に跳ね上がる。ちなみに年金は8兆円ほど増加するだけだが、医療費は現在の33兆円から53兆円へと20兆円になり、介護費は8兆円弱から19兆円を超えほぼ倍増するとみられている。これだけの社会保障を現役世代が果たして負担しいけるのか。これが日本でも問題になっているわけだが、有効な抑制の手立てが見つかっていない。これではアジアの国々が人口抑制出来ないのも無理はない。
シンポジウムではこの問題を解決する“魔法の杖”を示した。高齢者を健康にするということだ。サプリメントを含めた健康産業でこれを実現して、日本が高齢化を克服できれば、これらの健康産業をアジアへ輸出して、アジアの高齢化の克服に生かそうという壮大な構想だ。
サプリメントで国に動きが
こうしたなか今年になってサプリメントににわかに光が当たり始めた。2月に内閣府の規制改革会議でサプリメントの有効性についての表示規制の緩和が、さらに3月に自民党の政策審議会の統合医療のプロジェクトチームから政策提言が打ち出された。これら国の前向きな対応は初めてで、産業界から驚きの声も漏れてくる。
というのも主務官庁だった厚生労働省は従来サプリメントに消極な対応しかしてこなかった。食品の機能の体系的な研究は1984年に文部省(現文部科学省)の特定研究がはじまり、この結果は1986年に明らかにされた。これ以降、食品の持つ第3次機能「生体調節機能」が脚光を浴び、食品には人の健康への効果があることが注目されるようになった。機能性食品が登場することになる。
厚生労働省は初めて前向きな対応を示し、1991年に品目ごとに個別評価した商品に機能表示を認める特定保健用食品制度をスタートさせた。2001年にガイドライン型の栄養機能食品を加え保健機能制度に発展、現在に至っている。
しかしこの過程で保健機能食品に属さない“いわゆる健康食品”は積み残され、2009年に健康食品の表示行政は新たに発足した消費者庁に移管された。以降も保健機能食品をはるかに上回る市場とされる“いわゆる健康食品”の扱いはどうも消極的だった。
ところが同庁の設けた健康食品の表示に関する検討会がまとめた2010年の論点整理に「一定の機能性の表示の研究」として盛り込まれた。「検討」ではなく「研究」という言葉を使っていることは、先送りしたい行政側の意図を表している。
この「研究」に業界の要望もあって2011年に7000万円の予算が付いた。(財)日本健康・栄養食品協会に委託して事業を始め、昨年にはこの結果が報告された。グルコサミンなど11品目の健康食品について集められた学術データは日本学術会議前会長の金沢一郎を含む11名のメンバーで評価された。エビデンスの評価は表の通りだが、DHA・EPAなどは最高のAランクの評価を得るなど、全体としてはまずまずの評価となっている。この「研究」はこれ以降「検討」にはならずに凍結されたままだった。
政権交代で規制見直しへ
ところが昨年の選挙で政権交代があり、今年に入って情勢が変わってきた。「アベノミクス」を掲げ、経済の立て直しを図る安倍内閣府の成長戦略は6月に公表される。このために既得権益を保護している規制を改革することが必要になる。このため政府は内閣府内に規制改革会議を立ち上げ、検討に入っていた。この中で改革の課題となる59項目が2月に明らかにされた。この中の一つとしてサプリメントが取り上げられている。
これによると、現状は①一般の健康食品の効能効果表示の禁止、②保健機能食品の機能性表示の範囲や内容が限定的だとして、以下の規制改革を求めている。
「付加価値の高い農産物・加工品の開発を促進する観点から、ヒトによる治験を経て、健康増進に対するエビデンスが認められた素材を含有する健康食品について、その効能・効果に関する表示を認めるべきではないか」
ここから想定されることは生鮮食品からサプリメントを含めた加工商品までが対象で、エビデンスはヒト臨床が行われていること、しかしデータは原料レベルで、それが一定量入っていれば、効能・効果表示を認めるべきだといったもののようだ。
この会議の委員でこの課題を提唱している森下竜一(大阪大学医学部)教授はさらにサプリメントの国際基準をつくり、アジアへの輸出を促進することも視野に入れている。つまり健康づくりに止まらず、関連産業の振興なでを狙う。閣議決定され6月には閣議決まる日本経済再生本部がまとめる新たな産業創出のための成長戦略に加えられることになる。
統合医療推進提言で医療への応用も
自民党の政策審議会に統合医療のプロジェクトチーム(PT)が昨年2月につくられた。このPTの成果として昨年11月の選挙の政権公約の中に「生活の質(QOL)を高める統合医療の推進」をはじめて盛り込んだ。さらに3月には統合医療推進に向けた政策の提言をまとめ、統合医療の概念を確立するとともに手始めに「相補代替医療情報センター(仮称)」を設立、中長期的な目標として、医科大学や医療系の教育機関のカリキュラムに取り入れることや関連産業の育成、統合医療の認定医、医療コーディネーターなど資格制度の整備などを行う方針だ。
医療費の削減もあって、統合医療を医療に取り入れる動きは今後とも進みそうだが、その中でサプリメンの役割がクローズアップされることに期待が高まっている。
今後、健康づくりから医療への活用まで、サプリメントの有効性と安全性を支える科学的なエビデンスのあり方が問われることになりそうだ。