美容アンチエイジング業界コラム

提言 医新会 理事長(JSCAM特定非営利活動法人 日本臨床抗老化医学会・理事長)横山 博美MD

再生医療承認制の法制度化は、
「再生医療」発展に寄与するか?あるいはブレーキとなるのか?

安全性確保、患者登録、臨床効果や副作用の管理など歓迎
しかし運用面でスムーズな実施望む

京都大学の山中教授のiPS細胞研究が、昨年10月ノーベル賞を受賞したことを契機に、ヒトの細胞つまり、皮膚細胞から遺伝子変換を行って作製されたiPS細胞をはじめとし,受精卵の分割初期の分裂能が盛んなES細胞,骨髄や脂肪に含まれる間葉系幹細胞とその培養細胞、免疫機能をつかさどるリンパ球のNK細胞や、細胞性免疫能の上位に存在する樹状細胞等の培養免疫細胞使用する医療に関して、安全性や臨床の現場での普及の度合いに応じて、届け出と許認可を義務付け規制する法律を厚労省が中心となり定める方針が固まった。
その目標は、日本が世界に発信する再生医療の医療技術と臨床応用であることはいうまでもない。
そのために、iPS細胞を使った適正な再生医療を安全にs実施する体制づくりが急務だとして安全性の基準により、三段階に分類し
■リスクが高いと想定される再生医療iPSやES細胞など過去に治療実績が国内では少ない臨床研究→厚労省の事前承認例)網膜黄斑変性症の臨床試験
■リスクが中程度と考えられ、ある程度の安全性が確認骨髄や脂肪由来間葉系幹細胞治療の臨床研究→第三者審査委員会の事前承認→厚労省届け出と認可
■NK細胞、樹状細胞などの免疫細胞(すでにクリニックで普及されている自費診療の医療)→医療機関内の審査委員会→厚労省届け出と認可という体制の法制度が予定されている。

こうなった経緯は、以前から再生医療の安全で適正な発展をめざし、平成18年から継続して、厚労省のヒト幹指針等を中心に議論がされ、日本再生医療学会などからも再生医療の今後の在り方について、提唱と警鐘が行われてきた。その動きの中で、以前から議論されてはきていたが、山中教授のノーベル賞の受賞が起爆剤となり、経済再生の一役を担うべく、再生医療の事業化促進が超党派で議論され法制化の運びとなった。
まさに、環境やエネルギー開発と同様、あるいは、それ以上の新事業としての可能性、また海外からの日本の医療水準への信頼感の強さゆえに、日本発の海外進出事業の可能性が高まった。それゆえに、厚労省と経産省との主導権の綱引きがあったともいわれていた。
さて、私が関わってきた脂肪由来間葉系幹細胞の今後であるが、第三者機関における届け出に対する審査を経て、厚労省の許認可を得る方向性を手探り状態で探っている。
また、美容分野や若返り療法としての再生医療の分野も、非培養、培養細胞のいかんを問わず、届け出→許認可という法制度を守るよう行政指導の対象範囲になる可能性も低くない(一説には除外されるという話もある)
いずれにしても、将来は薬事法の対象ともなるであろう幹細胞療法については、韓国では、KFDAが今年中に結論を出すといわれており、また、幹細胞から誘導された膝軟骨細胞のアメリカFDAや、その他の国のカナダやヨーロッパの国々の許認可の行方など、注視せねばならない。
その一方で、幹細胞の培養液の進化も著しく、無血清は当たり前の時代となり、培養時の幹細胞分離から培養まで、全ての技術の工程で、ノンアニマルを徹底する事が要求される時代ともなっている。
また、薬事法の対象となることで、自家幹細胞のみならず、薬剤のように他家幹細胞を、遺伝子病のみならず、重篤な疾患への投与することも同時に検討されねばならない。
その際、安直な他家幹細胞の頻回投与が及ぼす発がん性や、免疫異常についても充分な検証を必要とされる。
最後に、この度の再生医療に関する法制度の制定は、安全性の確立と事故の予防体制、個人情報を保護しつつ、患者さんやクライアントの登録と臨床効果や副作用を、きちんと管理する事が主眼となり、大賛成ではあるが、出来る限りのスピードをもって、届け出→許認可がスムーズに実施される事を心底から望んでいる。少なくとも、厚労省と経産省の省益の契機となったり、一部の学会が権力をふるったり、第三者の審査委員会が昨今の教育委員会のような体とならぬ事を願ってやまない。

編集後記

横山医師からも述べられているように、政府与党はいち早く、成長戦略の柱の一つとしてiPS研究推進のための予算を増額、一方で再生医療分野にも今後思い切った予算を投入する方針を固めた。一方で〝iPS景気〝のとばっちりを受けることになりそうなのが、細胞治療の現場だ。再生医療と共に、自由診療における幹細胞治療の安全確保を目的にルールの法制化をめざす「再生医療規制法(再生医療・細胞治療の安全性の確保等に関する法案)」が、今国会に提出、成立される見通しとなった。
がんの免疫細胞療法に加え、さらに検討される範囲は美容アンチエジング、予防医療にも及ぶ。治療のリスク別に3段階に分類し、承認性や届け出制を設けることになりそうで、細胞培養の有無の関わらず、何らかの規制ルールが適用される公算が大きい。
とりわけ美容分野で最近人気が高まる、幹細胞を使った豊胸術や皮膚再生療法などにも規制の「投網」がかけられる可能性があり、業界からは「過度な行政の介入」を危惧する声もあがっている。
因みに、日本と違い医師法下ではなく薬事法化におかれる韓国の医療では、美幹細胞治療は現行ではできない。しかしKFDAが薬事法に基づく「幹細胞療法」の制度化を検討しており、場合によっては日本の法制化を睨みながら、ガイドライン策定により、ある一定の治療には門戸を広げる可能性は否定できない。となると、幹細胞の培養の後の治療を日本などに委ねる「未承認治療ヘブン」の特権を活用した医療ツーリズムは、もはや成立しなくなる。
安全性の担保などガイドランの策定とルール作りを進めることは歓迎するところだが、美容アンチエイジングを含め、再生医療を成長産業にするためにも日本の臨床成果をストップさせてはならない。韓国の動きをみればわかるはずだ。

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