最新治療レポート

最先端の研究をリード(ロシア幹細胞治療の現状)

最先端の研究をリード 
ロシア幹細胞ミッションから明らかに
「他家幹細胞がより安全」と指摘

今夏、東京で開催された「再生医療新法成立で動くステムセル療法と医療連携プロジェクト」(JAAS主催による第4回Stem Cell Therapy 日・露における幹細胞療法)をテーマしたセミナーから2か月後、JAASでは9月28日‐10月1日の日程で、ロシア幹細胞治療の現状を探るミッションが行われた。日本からの医師6名の参加を得て、日本側のアドバイザー中間 健医師を団長に、受け入れ側ロシアからはMedicoordinator代表のグラドコフ・アレクセイ氏が現地コーディネーターを務めた。ロシア郊外・オブニンスクの幹細胞療法の拠点・ロシア放射線研究所・治療クリニックでは、ミッション団をアナトリ教授(本紙111号既報)が出迎え、その培養施設に加え、高い医療技術と研究体制について概説しながら、特例で参加者に対して、骨髄系他家幹細胞の点滴による注入が行われた。そしてアナトリ医師から「9・11の福島原発事故では研究所から幹細胞治療の呼びかけをした」ことを明らかにした。またロシアでの幹細胞法治療の法整備を進める上で、科学的な検証を任されているアカガミーを訪ね、再生医療におけるロシアの最新事情をつぶさに聞いた。さらにロシア政府から委託を受けて幹細胞による再生医療の臨床を実施するCSTOでは、他家、自家のステムセルによる軟骨・骨の再生研究の成果について報告された。

日本から空路9時間を要して夕刻、モスクワに降り立った一行は、一夜明けた29日朝、オブニンスクにある放射線研究所・治療クリニックを訪ねた。正式名称はMedical Radiological Research Center of the Russian Academy of Medical Sciencesで、旧ソ連時代から脈々と受け継がれるロシアの放射線研究の総本山ともいえる場所だ。  
ステムセル研究は1965年から続けられ、その後、放射能汚染に対する幹細胞治療をつづけ、あのチェルノブイリ原発による白血病の治療研究でも、この研究施設が表舞台になっていたという。現在まで2500症例をこえる治験成果を得ている。出迎えたアナトリ教授から、特別にステムセル治療を受けることになる。4世代まで継代培養された骨髄系幹細胞で、疾患ほかすべてのチェックを細胞レベルで検査し異常が認められていないことはいうまでもない。2億個が点滴によって注入された。 「およそ30年の研究によって骨髄系のステムセルが最も効果が高く、培養法によって良質なステムセルを選択的に増殖させる技術を確立している」とアナトリ医師は強調する。
点滴を受けている間も、参加した医師らからの質問が続き、アナトリ医師からは「前立腺がん、小児性糖尿病などもこの治療で改善症例を多数みている。現在は抗がん剤との併用による幹細胞治療を継続中」と興味深い情報を提供してくれた。なかでも心筋梗塞に処方されるあるクスリは、幹細胞の効果をより高めることが最近、立証されたという。
翌30日ミッション団は、アレクセイ氏による斡旋のかいもあって、訪問すら難しいといわれる2つの政府委託の研究機関に向かうことになる。
その最初の訪問機関は、Russian Academiy of Sciencesで今ロシアが進める幹細胞法治療の規制法案づくりのための、科学的な検証を任されているところ。幹細胞などその種類、製造、輸送、治療のガイドラインづくりための厚労省から諮問された窓口だ。
「Biomedical Cell Products通称BMCPの新しい法律は今年の連邦政府の国会で審議され、通過すれば来春、検査、運用機関が稼働することになる」と同アカデミートップのYury Sukhanov博士は話す。しかし、法案が通過するかどうかはまだわからない。ガイドラインにはロシア国内への細胞輸入もしくは国外への細胞輸出を禁ずる項目が盛り込まれていることなど、産業界との利害がからむ内容も少なくないからだという。
次に細胞工学を専門とするエカテリーナ医師からも、臨床的な観点からロシアの幹細胞治療の事情を聞いた。なかでも「培養された自家細胞を自己注入するとキャンサーになるリスクがある。反対に他家細胞ではそのリスクは低い」と指摘したことは興味深い。そして皮膚の若返りや豊胸など美容やアンチエイジングに使う幹細胞こそ、他家由来だという。
次に向かったのは、ロシア政府から委託を受けて幹細胞による再生医療の臨床を数多く実施する形成外科・整形外科中央科学研究所、通称CSTOである。他家、自家のステムセルによる軟骨・骨の再生研究で最も進んだ研究を行っている。
同センターの所長・Nikolay OMELYANENKO医師によれば「先天性骨軟化症の患者に対して幹細胞治療をするとその再生が30%以上早まる」ことを、研究で明らかにしたという。来年には、アメリカの再生医療学会でこの最新の研究成果を発表することになる。
日・露 幹細胞治療のゆくえは?
法案通過が見込まれていた「再生医療安全性確保法案」(一部、薬事法改正)がこの秋国会を通過した。その内容を巡っては、当初盛り込まれていたクリニック併設の幹細胞療法の実施基準が、一転二転。CPC基準をより厳しくしつつGMP基準に準拠する施設とし、二次救急医療機関に限定するというハードルが設けられていたが、すでに、稼働しているクリニック併設の幹細胞培養施設では、いま治療を受けている患者もまた、この法案が通った場合、多大な治療コストがかかることや、何よりも現在稼働するすべてのクリニックが基準を満たすことができずステムセル療法のクリニックは閉鎖に追い込まれ、患者も当面治療は受けられない、とした背景もあり、培養しない治療は大幅に規制が緩和された。
法案通過前、規制官庁の厚労省には、こうした報道が明るみになってから反対意見が次々に舞い込み、9月には、培養しない幹細胞を使った治療には、当初の原案どおり届出制として、主に院内での患者の治験記録などの保管や培養管理記録をストックしさえすれば、日常的な治療はできると、一転して緩和の方向に向かった。  
一方、今回のコーディネイト役をしたアレクセイ氏は「ロシア幹細胞の技術移転をすでに加速させている。すでに香港、、マレーシア、マニラ、シンガポール、インドネシアに提携クリニックをもち、拠点となるロシアの培養センターの幹細胞の細胞工学、培養管理の技術者を派遣している」として、次の拠点に日本を視野に入れる。
患者のリピートは7割以上で多くがアンチエイジングを求めての治療であることから、「日本での培養拠点をつくれば、海外患者を誘致する幹細胞ツーリズムは成長できる。充分勝機はある」という。また医療連携にも意欲を示し、そのまとめ役にJAASを指名している。

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