美容アンチエイジング業界コラム

認知機能障害のメカニズム解明つづく

埼玉医大・菅らは
2型糖尿病の発症初期で海馬変性を確認

核心部分「学習・記憶障害の改善」は未だ明らかにされず

クスリではない、天然由来の両親媒性抗酸化物質に可能性!?

 糖尿病患者は、同年齢の健常者に比べ高次認知機能の低下が指摘され、認知症を引き起こしやすい。とくに2型ではその障害が学習・記憶に影響し、動物病態モデルを用いた研究では糖尿病によって起こる組織損傷には酸化ストレスが関与し、その結果認知機能障害をもたすことが明らかになっている。しかし2型糖尿病が学習障害をもたらすメカニズムは未だわかっていない。埼玉医大の研究チームによる2型糖尿病モデルラット(OLETF)を用いた動物実験でも、学習障害と脳内抗酸化酵素の増加傾向とが相関する結果を導いており、脳内酸化ストレスが学習障害をもたすことまでは立証されているが、同時に検討された研究課題である認知機能障害の制御(改善)には至っていない。

 埼玉医大の医学部生理学教室の菅 理江・研究チームリーダーらは、認知機能障害の抑制効果が報告されているペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)γアゴニストの一つ、ピオグリタゾンを糖尿病の症状が顕著化する25-30週齢ラットに投薬して、学習障害の改善を試みた。
 しかし血糖値のコントロールや抗酸化酵素の抑制には成果をみたものの、学習障害の成績の向上にはつながっていない。
『学習障害のメカニズム』を解明するため研究チームは、認知障害の要因を糖尿病発症の初期に求め、さらに若齢のラットで学習能力と脳内抗酸化酵素の変化を検討した。
 また認知症をはじめ認知機能障害のカギを握る脳部位の海馬に焦点をあて、海馬依存型の学習試験、放射型迷路課題を用いて、週齢による変化をみた。
海馬は脳の記憶や空間学習能に関わる部位であることは断るまでもない。ストレスを受けるとコルチゾールの分泌により海馬の神経細胞が破壊され委縮するが、うつ病患者にはその委縮が顕著にみられる。
 菅らは、その結果について埼玉医大雑誌・第38巻・1号に報告書「2型糖尿病における脳内酸化ストレスの動態とその制御による認知機能障害への効果」のかたちで掲載したが、迷路課題での実験では、OLETF群と対照群(LETO)の間で10週齢では、課題完了までの総エラー数に差がみられなかった。しかし、15週齢、20週齢ではOLETFのエラー数が有意に増え、顕著な学習障害を確認している。
これにより想定していた若齢範囲を10~15週齢と推察し、この時期に何らかの学習障害につながる脳機能不全が生じていると考察した。
一方、簡易的ではあるが抗酸化酵素の変化を週齢の違いから解析すると、10週齢のOLETFの海馬で抗酸化酵素の一つであるGPxの増加(P=0.026)が確認された。この結果から、海馬における早期の変性が示唆された。
こうしたことから、2型糖尿病がその発症から進行に至る過程で、どの時期に学習障害をもたらすかという「ブラックボックス」については、ある一定の研究成果を得たことは疑う余地はない。 
今後の課題として、研究の核心部分でもある「学習障害の成績の向上」について解明への歩みは続くことになるはずで、その成果に期待したい。
本研究とは関係性はないが、興味深い研究成果がある。天然由来の両親媒性の抗酸化物質が血液脳関門(Blood brain barrier)を透過するという報告だ。血液脳関門は、中枢神経細胞の外液を恒常的に保つ保護機構をもつもので、血液中の物質が脳に侵入することを防ぐ。
多くの抗生物質などがこの関門によって脳に通りにくいため、中枢神経感染症の治療薬の開発が進まない。
しかし先述の抗酸化物質は血液脳関門を透過できる。そうであるとしたら、脳内の過剰な活性酸素を消去する仮説が成り立ちさえすれば、2型糖尿病に伴う認知機能障害を改善する可能性は決して低くはない。いや可能性は決して否定できないはずだ。

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