最新治療レポート

ステムセル療法は、世界の潮流

ロシア幹細胞治療の拠点を現地取材
放射線研究所・治療センター

1965年から研究開始
骨髄系StemCellを培養しアジアに医療ツーリズムへ

本紙JHM取材班は、再生医療に関わる海外での実態をつぶさに探るため、先ごろロシア連邦の首都・モスクワに現地派遣、オブニンスクにある幹細胞治療の実際をみてきた。旧ソビエト連邦の崩壊によって民主化されつつ、一方で資源輸出などで経済成長を遂げるBRICsの一角ロシアは、モスクワを中心に「ロシアンバブル」の真っただ中にあり、先進国を追うように富裕層の消費意欲はすさまじい。一方〝共産圏時代の遺産〝ともいえる軍需技術や医学、化学、物理分野でのベールに包まれてきた高い技術は、いま民間投資へと向かう。高い技術を生んできたのは、旧ソ連時代の化学者、医学者など「頭脳」であることはいうまでもない。最近では若き頭脳たちが海外に流出して成功を収めており、Googleの創始者セルゲイ・ブリン氏などはその好例だ。こうした高い国内需要と最先端の技術によって、国内経済は順調に推移している。とはいえ、主に疾患を対象にしたロシアでの幹細胞治療であることから、国内での需要には限界があることは否めない。そうしたことから、この研究・培養拠点から、すでにアジアなど海外に向けて、アンチエイジングの一環として医療ツーリズムが始まっており、成功を収めている。本紙では、この医療プロジェクトを立ち上げてきたMedicoordinator社のグラドコフ・アレクセイ氏と、幹細胞治療についてJAASの活動を通じて、コンタクトを図ってきた。そして今後、一部でみられた悪質な投資会社や詐欺まがいのビジネスを排した、良質な日本での幹細胞クリニックと医療連携プランを構築するために、同社とのパートナーシップを結んでいくことで合意している。


本紙と共に、モスクワに同行したのはJAAS理事の中間 健医師(赤坂ACTクリニック)で、国内最多の脂肪由来の幹細胞治療の症例数をもつことは周知の事実である。現在まで3000症例を優に超え、狭心症や心疾患などの血管系さらには糖尿病の合併症・下肢の壊疽など有効な治験データを得ており、同医師が提携する培養センターからアジア諸国で治療をする患者数を含めれば5000症例はくだらない。ある意味、臨床ではiPSを圧倒しているというより、iPSの治療そのものが、今後10年の間に開始できるかどうかは疑問で、幹細胞治療は優位に立っている。
さて、現地モスクワでのコーディネーターは先述のアレクセイ氏で、Medicoordinator社代表でありながら、アジア各国に幹細胞医療の橋渡し役をするインターナショナルなメディカルビジネスエキスパートでもある。すでに香港、マニラ、シンガポール、インドネシアに提携クリニックをもち、拠点となるロシアの培養センターの幹細胞によって医療ツーリズムを行う。
モスクワから車でおよそ2時間、オブニンスクという郊外へ我々は向かった。森の中に立つロシア放射線研究所・治療クリニックの中にそのセンターはある。正式名称はMedical Radiological Research Center of the Russian Academy of Medical Sciencesで、旧ソ連時代から脈々と受け継がれるロシアの放射線研究の総本山ともいえる場所だ。地名に聞き覚えのある読者もいるだろう。そう、このすぐ近くで世界初の民間の原子力発電所が稼働していた。
迎い入れてくれたのは、幹細胞治療のセンター長であるマナトリ教授(医師)と、モスクワ大細胞工学博士で培養技術の責任者でもあるソニア女史だ。
「ステムセル研究は1965年から続けている。旧ソ連時代からで研究成果は政治体制ゆえに学術論文として明らかにされていません」
そして、その後、放射能汚染に対する幹細胞治療をつづけ、あのチェルノブイリ原発による白血病の治療研究でも、この研究施設が表舞台になっていたという。現在まで2500症例をこえる治験成果を得ている。
我々取材班そして中間医師は、特別にマナトリ教授から、実際のステムセル治療を受けることになった。培養された他家幹細胞は、骨髄系のステムセルで2億個が点滴によって注入された。
「何十年の研究によって骨髄系のステムセルが最も効果が高く安全で、培養法によって良質なステムセルを選択的に増殖させる技術を確立している」
治療の後、マナトリ医師と中間医師とのさまざまな症例結果のディスカッションを行った。日露の幹細胞治療医がこうしたかたちで医学的な議論をしたことは喜ばしい。
生命を守り、生命を救うという医師が本来担う責任と役割は尊い。そして現場で症例を積み重ね、安全性にまで研究の情熱を傾けている臨床医の努力と経験を、偏見に満ちた眼で敵対視したり、排除したりする一部の再生医療に関わる関係者や、マスコミには、ぜひこうした日露間の医師同士の真摯な交流があることを忘れてほしくない。
3面で掲載しているとおり、幹細胞(おもに間葉系細胞MSC)に対しては、いわれなき誹謗・中傷が大手新聞社をはじめ、映像メディアでも展開されている。確かに一部の医療機関では、ステムセルの知識、治療経験さらには見識の欠如によって、患者への医療事故をみたケースもあり、今年4月に成立した再生医療推進法につづき、新法として閣議決定をみた再生医療安全性確保法案(一部薬事法改正)など、法的な整備をする必要性は高い。
そもそも、一連の報道そして新法へのシナリオは、現政権が打ち出した成長戦略の一環として予算計上をした iPS細胞の医療への応用がきっかけとなったことはいうまでもない。幹細胞療法や豊胸など美容への利用に対して、ことさらに一部真相を明らかにしないまま、すべての治療行為を「悪質」と決めつける手法は、まさにiPSのスケープゴートに仕立て上げた感は否めない。
ただ、先のTV番組で、幹細胞治療に対する臨床医の良識あるコメントもあり、日本再生医療学会理事の大和医師からも「法律が整備されれば、真摯に幹細胞療法の研究及び治験をやっている医師や施設には信頼は高まるはずで、逆に悪質なところはふるいに落とされる」と肯定的な意見も出ている。
◎JAAS日本アンチエイジング外科学会では、JSCAM日本臨床抗老化医学会との共催で、きたる8月4日(日)東京にて、「第4回StemCell Therapyと美容アンチエイジング/法的整備がすすむ再生医療と、チャンス到来の新・幹細胞療法クリニック~輸出型・医療ツーリズムの可能性と国内医療連携への道」を開催します。同時に9月末には、本紙が現地取材した研究所と治療の現場をみる「モスクワ現地派遣ミッション」も実施します。
詳しくはJAAS公式サイトをご覧ください。

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