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〝iPS景気〝のとばっちり被る!?
再生医療規制法案、今国会成立の公算

幹細胞使う美容アンチエイジングにも対象、届出制検討

異論続出
自由診療の医師裁量はどこへ?」など過度な行政介入を危惧する声も

 

山中教授が万能細胞、iPS(人工多機能性幹細胞)研究によってノーベル医学・生理学賞を受賞したことは喜ばしい。政府与党はいち早く、成長戦略の柱の一つとしてiPS研究推進のための予算を90億円に増額、一方で再生医療分野にも今後思い切った予算を投入する方針を固めた。一方で〝iPS景気〝のとばっちりを受けることになりそうなのが、細胞治療の現場だ。再生医療と共に、自由診療における幹細胞治療の安全確保を目的にルールの法制化をめざす「再生医療規制法(再生医療・細胞治療の安全性の確保等に関する法案)」が、今国会に提出、成立される見通しとなった。

がんの免疫細胞療法に加え、その範囲は美容アンチエジング、予防医療にも及ぶ。治療のリスク別に3段階に分類し、承認性や届け出制を設けることになりそうで、細胞培養の有無の関わらず、何らかの規制ルールが適用される公算が大きい。とりわけ美容分野で最近人気が高まる、幹細胞を使った豊胸術や皮膚再生療法などにも規制の「投網」はかけられる可能性があり、業界からは「過度な行政の介入」を危惧する声もあがっている。


iPSを使った再生医療と共に、自由診療における幹細胞治療の安全確保を目的にルールの法制化をめざす「再生医療規制法」が、今国会に提出、成立される見通しとなった。
新法では医療のリスクに応じた事前承認の義務付けや行政への届け出制、さらに培養施設のCPC(Cell Processing Centerの略称で、細胞培養専用クリーンルーム)や管理基準の明確化など、厳しさを増す。
所轄官庁の厚労省では、iPS以外の細胞治療、たとえば血液、骨髄、脂肪や皮膚を使った幹細胞による治療についても安全性が担保されず誇大広告をするクリニックについても、この適用範囲としており、「罰則つきの法規制」が必要と判断。同省の専門委員会である「再生医療における制度的枠組みに関する検討会」で、かねてから議論を重ねてきた。
具体的にはリスクを3つの分類に分け、iPS細胞やES細胞などを使う臨床研究、治療では国の審査と厚労相による事前承認を課す。中程度のリスクには、骨髄や脂肪などからの幹細胞医療が相当するとして学会など第三者機関の審査と国への届け出制としている。
リスクの低い医療には、免疫細胞を培養して体内に戻す治療などをその範囲として、医療機器間での倫理、審査委員会の事前承認の後、厚労省に届け出が義務付けられる。
明らかになっている適用範囲では、主に培養細胞をもとに治療するもので、腹部吸引術で幹細胞を含む脂肪細胞などを抽出し分離、選択して、皮膚再生や豊胸のために戻す、いわゆる美容アンチエジング医療は見当たらない。
しかし、先述した厚労省専門委員会「再生医療における制度的枠組みに関する検討会」では、豊胸手術や皮膚再生で使われる幹細胞治療についても対象とする方向で検討が進められている。培養したか否かは、この検討課題ではない。そのため、幹細胞そのものを使った美容分野への規制の「投網」がかかる可能性は否定できない。
ちなみに、専門委員会のメンバーは厚労省出先の研究所・国立医薬品食品衛生研究所をはじめ、製薬大手、医療デザイスなどの業界代用、日本医師会、薬剤師会、大学機関、弁護士など18名で構成されている。分類上、クスリによる再生目的の治療は、リスク分類の範ちゅうには入らず除外されており、この解釈も専門委員会で議論され出された結論である。
こうした動きの中で、日本再生医療学会では昨年1月の声明文につづき、最近「医師の判断のみで再生医療が行われることは危険」として、法整備は必要とする立場をとる。
一方、美容業界はじめ、幹細胞治療を推進する関係者からは「過度な行政の介入」を危惧する声も少なくない。
適切で十分に安全性の確保上、一定の規制はやむを得ない、としつつも、「学会など第三者機関」の位置づけが明確ではない。「その学会とは日本再生医療学会なのか?」、また「医師法上、医師の裁量権は明確ではないものの、混合診療にあたらない自由診療では医師の責任と判断のもと患者との同意の上で、治療を選択できるはず」という意見も。。
また「美容医療の性格上、医師と患者間に厳格な治療内容上の守秘義務が前提となって信頼関係が築かれている。仮に届け出制が実施された場合、医療側は従っても、患者の方で拒むケースがなくはない」といい、幹細胞を使った美容・皮膚再生の需要そのものが奪われかねないと心配する。
こうした賛否両論があるなか、いずれにしてもこの法案は大筋、国会を通過し、実効される公算は大きい。
そして、治療そのもの以外にも、細胞培養の施設基準の厳格化はもちろん、治療で使われる分離・抽出機器やデバイスなどにも一定の規格、基準を求められるこことから、美容分野で導入される周辺機器にもその影響は避けられない。

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