Doctor’s LABOトピックス

酵素、酵母サプリ

ここ半年ほど通販サイトなどで爆発的に売れている酵素ドリンクによるファスティング(断食)ダイエット。1日に数回飲むか、3食のうち1食をこのドリンクに置き換えることで、ダイエットはもちろん美肌・腸内環境改善・疲労回復などにも効果的と言われ、女性誌やメディア・ネットでも話題になっている。話題になっている理由は、体感があることだ。実際にこのファスティングダイエットを行ったところ痩せたという声も多く聞く。それほどまでに、酵素はダイエットに効くのだろうか。

酵素は、全ての生化学反応に関係する触媒で、栄養学では9番目の栄養素と言われている。人間の身体にある体内酵素(消化酵素と代謝酵素)と植物などに由来する体外酵素に分けられる。腸内改善効果があるいわれている酵素だが、一部では「酵素は腸に届く前に胃酸で失活する」「胃から腸に運ばれる間に消化されてしまう」などとも言われている。この部分について真実はどうなのだろう。

「酵素サプリは『酵素栄養学』に基づいていますが、この学問は未だ発展途中の段階で、まだ検証すべき内容は多いと思います」。こう話すのは、酵素サプリを製造・発売する株式会社イムダインだ。「酵素栄養学」は数十年前にアメリカのエドワード・ハウエル氏が提唱した学説である。その後、今に至るまで様々な臨床データが発表されているが、食物酵素を摂るだけで痩せるなどの効果が実証できるような論文は提出されてない。野菜や果物から抽出した酵素は想像しただけで効果がよいイメージがあるが、「ローフード」は「酵素」だけではないところに注意が必要である。

なお植物酵素自体が直接体内で効果を発揮しているかの実証は難しいが、植物酵素を摂取することで体内酵素が相対的に活性化することが分かってきており、その結果として腸を中心とした身体の代謝が改善し、ダイエットやアンチエイジング効果を発揮すると考えられる。特に腸内環境を安定させる効能は現代人にとってありがたい効果だ。

前述のイムダインでは、酵素研究の第一人者である鶴見クリニックの鶴見隆史医師とも連携し酵素商品「鶴見式酵素/フェルメイト」を開発。キウイフルーツエキス末、穀物発酵エキス末、納豆菌培養エキス末、米麹粉末などの酵素原料を使っている。また今年8月には医家向けの専用酵素サプリとして、それぞれの酵素のバランスを強化した「ゼンザイム」も発売を開始している。同社における植物酵素サプリの位置づけは、ダイエットや美肌目的というよりも、腸内環境活性化、免疫強化、健康維持を目的としている。

とはいえ、酵素ドリンクを使ったダイエットはなぜ効果が出たのだろう。
いろいろと関係者に話を伺うと、酵素ドリンクについては、単純に一食分の食事をドリンクに置き換えたために、摂取カロリーが落ちて結果として痩せたというのが真相のようだ。酵素ドリンクには、野菜や果物などから抽出した酵素が使われるが、実際に飲もうとするとこれだけでは植物臭く、一般消費者には飲みにくい味になる。そこで味をまろやかにするために加糖ブドウ糖等を加えることになるのだが、場合によってはこの加糖が商品のメインになっている酵素ドリンクも多い。わざわざ甘くした野菜ジュースを食事の代わりに飲むのであれば、野菜や果物だけで作られた天然の野菜ジュースを飲み続ける方が健康によいのはいうまでもない。
また酵素ドリンクの中には、「生」の酵素ドリンクと謳っているものもあるが、酵素ドリンクは法律による分類上、清涼飲料水になるため必ず85度以上での加熱処理がされている。つまり「生」の酵素が消費者のもとに届くことはない。消費者がどこまで気付いているかはさておき、ここでいう「生」の酵素とは、ドリンクの原料である野菜や果物のことを指し、出来上がった商品のことではない。

酵素ドリンクブームは、酵母業界には影響はあったのだろうか。来月から東大など複数の大学にある研究室と連携し、成分調査や効能調査、研究開発を行う、「酵母」を取り扱って40年の歴史を持つ株式会社日健協サービスに話を伺った。同社は一貫して酵母を使った商品の研究開発を行っている。

酵素と同じように思われがちな酵母だが、実は乳酸菌同様に生物である点が特徴だ。酵母が腸内環境をよくすることで健康維持を図る。特に同社の場合は特殊なコーディングを施すことによって腸内まで生きたまま酵母を運ぶことに成功している。以前は薬局での販売が中心だったが、現在はテレビ通販、ネット通販、百貨店やショッピングモールでの販売の割合が増えてきている。またエステサロンなどへの卸販売も行っており、より幅広い層に酵母のメリットを知ってもらおうと活動中である。

改めて、酵母業界には、酵素ブームは影響したのだろうか。同社に聞くと、それほど大きな影響はなかったという。逆に、「メディア主導の急激なブームになると、大事に育ててきた製品やお客様が離れていく可能性もあります。もちろん今後も販路は拡大していきますが、一過性のブームや話題に流されない体力と実績をしっかりつけていきたいと考えます」と話す。

関係筋はこう言う。結局、一般消費者やメディアが求めているのは「体感」だ。ダイエット商品であれば、「痩せる」という効果が求められる。エビデンスや成分がどうあれ、飲むことで痩せるのであれば消費者はずっと飲み続けるし、売れ続けるのだという。そしてエステサロンなど業者側も、結果が伴うのであればということで、主要成分にそれほど効き目ではないとわかりつつも来店者に勧めているところもあるようだ。

確かに消費者からすれば、体感は最も重要だ。仮にエビデンスが取れているしっかりした成分でも、飲んでも変わったと実感できないのであれば飲み続ける理由はない。今回の酵素ドリンクブームは、広告代理店側の巧妙な仕掛けがブームにさせた理由の一つと言えよう。
よいものを時間をかけて研究・開発する会社がある一方、消費者心理を上手に味方につけて瞬間風速的に販売する会社がある。いずれも企業戦略ではあるが、きちんと研究を積み重ね、真剣に取り扱う成分や商品と向き合っている会社がきちんと評価されるような世間になってほしいとも思う。

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