睡眠障害の有症率は高い
土井研究官(国立保健医療科学院)の論文で明らかに
2型糖尿病やうつ症では
不眠症、中途覚醒で有意なリスク示す
「かえって疾患を増悪する睡眠薬もある」と警鐘鳴らす
昨年、あるレビューが論文掲載され話題を集めた。睡眠障害の頻度(有症率)と睡眠障害による健康への影響について、国内外のエビンデンスをもとに解析、論評したスタディだ。今や睡眠研究は国家的な健康戦略の一つとして捉える国は少なくない。日本ももちろん例外ではないことから、疫学調査研究が進められてきた。そして掲載されたこのレビューでは過去10年間にわたる「日本における睡眠障害の頻度と健康影響」を解析、評価した。その結果、睡眠障害の有症率は慢性不眠で約20%、睡眠時無呼吸症候群で3~22%、周期性四肢運動障害で2~12%、ナルコレプシーで0.16~0.59%などであった。また健康影響に関するコホート研究では、死亡に対する短時間睡眠で1.3~2.4、長時間睡眠で1.4~1.6を示し、さらには2型糖尿病の罹病に対し入眠困難で1.6~3.0、中途覚醒で2.2といずれも有意なリスク比を認めている。一方、入眠困難と抗うつとの間でも有意なオッズ比を示した。
文献レビュー(保健医療科学2012年 Vol.61)は、国立保健医療科学院の土井 由利子研究官の発表によるもので、睡眠障害が罹病のリスクを高め、生命予後を悪化させるとした過去のエビデンスを立証したことになる。
レビューでは睡眠の質と量そして覚醒リズムについて解説しながら、米国の睡眠障害国際分類(ICSD)をもとにして、主要な睡眠障害8項目について、日本での頻度を解析した。分類上、不眠症、睡眠関連呼吸障害、中枢性過眠症、概日リズム睡眠障害など大きく8つになるが、さらに細分類されていくが、いずれの睡眠障害も疾患特異的な症状をもつことが多い。
そのためその分類に応じて治療方法は異なり、適切な診断をすることが求められるという。
論文では日本で実施された疫学研究の結果が示され、1997年の全国規模で実施された地域、職域での有症率を明らかにした。ICSDの分類上、それぞれの有症率は前述のとおりだ。
そしてレビューでは睡眠時間と死亡、さらには2型糖尿病、うつ病などの罹病について論を進める。
睡眠時間の解析には、2007年厚労省が実施した「国民健康・栄養調査」と「労働安全衛生特別調査」の報告をもとに行われ、睡眠時間の分布を示している。それによると、無作為抽出された全国15歳以上の一般住民8,119人および20歳以上の民営事業所従業員11,440人共に、6~6.9時間が中央値・最頻値とする正規分布を示し、一方で6時間未満では、20歳以上の従業員で男性41%、女性45%であった。また6時間未満で割合の高い職種は保安(68%)、運輸(50%)、営業・サービス(49%)と続く。
統計分析では、「終夜ポリグラフから得られた健常人の睡眠時間は年齢と共に減少する」ことも確認されている。
そして、この睡眠時間の分布と傾向を参考にしながら、死亡との関連性をみていくことになるが、多くの疫学調査(コホート研究)を解析したところ、死亡に対する相対リスクは、短時間睡眠で1.12、長時間睡眠でも1.30と有意に高くなる傾向を示した。ただ糖代謝や交感神経への影響が示唆される短時間睡眠に比べ、長時間睡眠と死亡との因果関係はいまだ明らかにされていない。
同じようにコホート研究の論文をもとに睡眠の量、質に対して2型糖尿病の罹病の相対リスクを解析したところ、短時間、長時間共に有意に高くなった。さらには2型糖尿病の罹病に対し入眠困難で1.6~3.0、中途覚醒で2.2といずれも有意なリスク比を認めている。一方、入眠困難と抗うつとの間でも有意なオッズ比を示した。
研究にあたった土井氏によれば、慢性不眠や中途覚醒と関連する症状は、糖尿病に限らず身体疾患、精神疾患などと共存していると指摘する。腰痛、頭痛、疲労、心配、いらいら、高血圧症、胃・十二指腸潰瘍などその影響は大きい。
レビューの結論では、睡眠障害に適切に対処することが健康増進やQOLの向上をもたらすとして、厚労省が策定(同省精神・神経疾患研究委託の睡眠障害の診断・治療ガイドライン報告より)した12の指針を示す。その中で「通常の睡眠薬では効果が期待できない疾患もあり、かえって増悪してしまう疾患さえある」と警鐘を鳴らしている。そして、12指針では、日頃のライフスタイルを見直す項目に多くを割く。とりわけ「睡眠の質改善」「栄養改善と規則正しい食事」そして「規則的な運動」に心がけることはいうまでもない。
たかが睡眠障害と侮ってはいけない。2型糖尿病やうつ病の罹病には不眠や中途覚醒が相対リスクとして高いことは前述のとおりだ。リスクマネージメントのヒントを以下記事に記載した。ぜひご覧いただきたい。