Doctor’s LABOトピックス

多角化するクリニック運営

メディカルエステ併設、
ドクターズコスメ、サプリ、低侵襲への移行・・・
重要なのは「患者満足度」をいかに上げるか

院内にメディカルエステを併設する美容クリニックや、診療とあわせてサプリ・ドリンクなどを販売するクリニックが増えてきた。このような取組みに成功しているクリニックもある中、エステにうまく患者を誘導することができない、仕入れたサプリやドリンクをスタッフが積極販売しない、患者へどう案内すればいいか分からないなど、新たな悩みを抱えるクリニックも多い。本紙では、美容医療の診療の他に新たなメニュー、サービスを展開して付加価値を提供して成功するクリニックを探ってみた。

メディカルエステ成功の秘訣は?

医学的根拠に基づき医師監修の上で行うメディカルエステが増えている。一般的なエステサロンの場合は、店の雰囲気やアロマ等の香りといったリラクゼーションやトリートメント効果を期待して通う顧客も多いが、クリニックが提供するメディカルエステの場合、診療とあわせて施術を受けることで、施術効果が高まるものが中心だ。
エステ部門の診療の前後に、医師が調合した独自の薬剤を使用したり、エステでは使えない医療機関のみ取り扱いができる美容医療機械で施術を行って、美肌、毛穴ケア、ニキビケアなどの治療をするものが中心だ。また施術前に医師が診療を行うことで、より個人の体質や症状にあった施術法を提案することも可能となる。患者側も、単なる「エステの気持ちよさ」ではなく、しっかりとした効果を期待して通っている。
都内を中心に複数院を運営する中堅の美容皮膚科の場合は、クリニックで施術した後のスキンケアを目的に、メディカルエステの案内をしている。施術を受けたとはいえ、その後も状態を維持するために、エステで定期的にアフターフォローを行うのだ。このクリニックではドクターに限らず受付や看護師といったスタッフも、医療とエステの双方の重要性や違いをきちんと理解し、診療後の患者に対してエステ術によるアフターケアを薦めることがごく自然に行わているという。
院長は「医療とエステは敵対するものではない。お互いの特性を活かし融合させ患者様に最大現に活用することが今後の美容医療にとって大事なこと」と話す。きちんと目的や違いを論理的に説明することで、患者も納得し診療後にエステでアフターケアをする人が少なくない。

クリニック・エステ・コスメの総合提案

また別の美容クリニックでは「ドクター監修」という点を大きく打ち出し、医療、エステ、そしてドクターズコスメやサプリといった物販を展開している。
同院では、グループ全体で患者の「美容全体」をトータルサポートする体制を整えている。クリニックに診療に来た患者にその場で医療技術を提供すると共に、自宅でのセルフケアとしてドクターズコスメ等を医師自らが紹介する。そして診察後や会計時に受付スタッフがドクターズコスメ等を再度案内し、購入へとつなげる。
この方法は一見とても簡単に見えるが、スタッフへの商品知識の共有や販売方法などの教育体制をしっかり行わないといけない。何よりスタッフへの日々の意識付けが大事なので、場合によってはインセンティブ等の設定も行い、院内販売を強化することもある。
さらに同クリニックの場合、院内販売で相応に結果が出たところで、今度は通販サイトを活用しネット上でも販売する。通販サイトは原則、一度はクリニックで購入したことのあるリピート購入者向けの販路だ。クリニックに行かなくてもネットで購入できる体制を作ることで、患者の負担や通院の煩わしさを軽減し、更には売上へと繋げていく。
もちろん無理な販売や勧誘は行ってはいけない。肌の状態や診療結果等とあわせて、プラスアルファで必要な商品やサービスについて説明し納得した場合のみ、商品やエステサービスを提供する。そのためにはスタッフへの教育や広告展開などの個々の準備ももちろん必要だが、クリニック全体でひとつの流れを作り、医師はもちろんスタッフも含め全員で共有し、しくみ化する必要があるようだ。

小規模クリニックでもセルアップは可能

医師1名、受付1名体制の小規模な美容クリニックでもサプリなどのクロスセルに成功しているところがある。港区にあるクリニックでは、診察やカウンセリングの際に患者の症状や悩みにあわせて医師自らがサプリの提案を行う。  
医師1名体制のため、この先生に診察してほしいためにこのクリニックに来ている患者がほとんどだ。こういった場合、複数の医師が在籍するクリニックよりも患者と密接な信頼関係を作っていることが多い。商品がよいことが前提ではあるが、信頼しているかかりつけの医師に勧められると、購入する確率はもちろん、その後リピートする可能性も高い。同クリニックの場合は、定期購入も含めると月間300本弱のサプリが売れているという。
アメリカでは、7割以上のドクターが患者にサプリ等を勧めているというデータもある。日本と異なり医療保険加入が自由なため、通院前にサプリで健康管理を行う人が多いのも理由の一つだ。日本ではまだクリニック発信のサプリはそこまでは広がってはいないが、同様の傾向がある。以前本紙でも紹介した、クリニックでのサプリ販売に詳しいアンチエイジング・プロの栗山氏も、診療とあわせて関連するサプリやドリンクなどのクロスセルの重要性を説いていた。結果的にそれは診療やサービスに対する満足度を上げ、医師との信頼関係をより堅固で包括的なものにする。
そんな中、クロスセルとは逆に診療科目を減らす動きも出てきている。大手美容クリニックでは、経営体制をシフトして侵襲の施術を中心とした形に変更を行っていると聞く。患者の診療ニーズが、脂肪吸引や豊胸といった全身麻酔や入院を伴う大規模な施術から、注射や点滴等の注入術や美容機械による照射術等へと移行してきているのも理由だろう。低侵襲であればリスクも減り、さらに一人当たりの施術時間も少なくなるため、安全に多くの患者に対応することができる。
方法は様々であるものの、多くのクリニックがマーケットを睨みながら新しい方向へと舵を切りつつある。このように、時代にあわせた経営センスや技術力はもちろんだが、やはりクリニック運営においては最も重要なのは、患者との信頼関係だろう。
これがなければ、クロスセルという発想はもとより再来院にさえつながらない。
施術料金の値下げやクリニック数増加などで、新患獲得も難しい時代になってきた。だからこそ、患者とのコミュニケーションを強化し、再来院につながる工夫やクロスセルにつながるサービスを導入し、結果として「患者の満足度」をあげるしくみ作りが必要なのではないだろうか。

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